Leatherman Wave
2010.6.28更新
 レザーマン(Leatherman)の『ウェーブ』(Wave)の紹介です。
 レザーマンツールは、ペンチ(プライヤー)をメインツールとしながら、 ハンドル内にナイフを始めとするツール類を収納し、ナイフの世界に「マルチツール」という分野を確立した有名なメーカーです。 この「ウェーブ」は、レザーマンツールの中で長くフラグシップとして君臨したモデルで、 今でこそ「チャージ」や「スケルツール」にその座を譲りましたが、最高位の「チャージ」シリーズと比較しても機能的に遜色なく、 ミドルクラス、メインストリームとして申し分のないマルチツールです。
<テクニカル・データ>
レザーマン ウェーブ 2004年発売版
( )     項目  実測値  公表値
(A)  ハンドルの全長  101.3mm 10cm
(B)  ハンドルの幅  29.4mm  -
(C)  収納時の幅(突起部を含む)  36.7mm  -
(D)  ハンドルの厚さ  17.8mm  -
(E)  収納時の厚さ(突起部含む)  18.7mm  -
(F)  メインブレードの刃渡り  71mm  -
(G)  メインブレードの厚さ  2.2mm  -
( ) メインブレードの材質  -  SUS 420HC
( ) 本体・プライヤー等の材質  -  SUS 420J2
( ) 重さ(ビットキット2種含む) 239.3g  246g
( ) 搭載ツール数  17種類  17種類
( ) 分解可能な構成パーツ数  35点  -
( ) 構成パーツ数  47点  -
付属:ケース、日本語取扱説明書、多言語取扱説明書、ステッカー

もくじ

(1)『ウェーブ』というツールについて
(2)普通のペンチと比べてみた。
(3)シンメトリーデザインと言えば聞こえがいいけど…
(4)サムホール付きナイフ類と完璧なロック機構
(5)側面の見た目も似ている
(6)レザーマン ウェーブの"顔"プライヤー
(7)プライヤーを開くと…
(8)プライヤーを開いてから出すツール
(9)内側のツールもロックが利く
(10)ウェーブは完全に分解・清掃・メンテナンスできるマルチツール
(11)稼働部が錆びても復活させる!
(12)好きなツールを搭載したウェーブも作れる?
(13)ステッカーも付属。ウェーブの製品パッケージと付属品
(14)実は短い?製品保証は25年間
(15)付属のケースも完璧な機能性を持つ

『ウェーブ』というツールについて

 このレザーマン ウェーブですが、実は何回もモデルチェンジしています。 このモデルは何代目?自分の記憶では、”ウェーブ”と名の付いたものは3代目です。
 これは2004年にモデルチェンジした現行(2006.7月現在)のものです。 前モデル(レザーマンのHPへ)との主な違いは幅広のナイフと交換式ドライバーになったことです。 さらにその前は、ハンドルが四角く、使うと手が痛くなったとか。実物を見たことはありませんが。

 ところで、レザーマンツールの中で「Wave」の位置づけが、ここ数年で随分と変わりました。 「Charge」や「Skeletool」の発売前は、「ウェーブ」こそがレザーマンツールの不動のフラグシップで、 iPodのように世代で新製品を出すものと思っていました。実際、当時のラインナップは、ウェーブがフラグシップで、 ジュースがキャンプ、スクォートがタウンユースと、それぞれの住み分けがしっかりしていました。 今(2010年6月)のように、「材質は違うけど機能がほぼ同じ」なんてしょっぱいラインナップではなかったのに。

 で、そのウェーブ。初めて手に持ったときの感想は、「重い」…(-_-;)。 なんとビクトリノックスのスイスチャンプよりも重いです。 もっとも、スケルツールから軽量化にも挑戦しているので、これからにも期待です。
 なぜ数あるツールナイフ・マルチツールからウェーブを選んだかは、「ペンチの有用性」、 「工具色が強く=ナイフの印象が小さい」、最新モデルと比べても「機能的に遜色ないこと」。この3点に集約されます。
 購入から5年以上経ち、ウェーブ以外のツールもラインナップに加わりました。しかし高機能性を優先する私が買い替えないほど、 生みの親レザーマンがウェーブより決定的に優れたツールを作れていないくらい、このウェーブは完成されたモデルなのです。

<レザーマン ウェーブから派生した商品ラインナップと寸評>2010年6月時点
モデル名  本サイトの寸評 ツール数
ウェーブ  機能は上位モデルとほとんど変わらない基本モデル  17種類
チャージAL  ウェーブのナイフとハンドルの材質を変えただけ。存在意義が不明瞭。  17種類
チャージTTi  ウェーブの材質を改良したフラグシップモデル。クリンパーとカッティングフック追加 19種類
チャージALX  TTiのハンドルをアルミに、ハサミをビットドライバーに変更。  19種類
サージ  ウェーブを大型化し、ハサミも大きく。キリを追加。ノコギリとヤスリを交換式に  20種類

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普通のペンチと比べてみた。

 左の写真は、レザーマンのウェーブのプライヤーと、ホームセンターで売っているニッパー、ペンチです。 ニッパーやペンチ、その派生系を含めて英米では プライヤーと呼ぶようです。
 プライヤー(ペンチ)がメインツールという点に偽りはなく、確かにフルサイズのペンチです。 このペンチは、日本でいうラジオペンチ、プライヤー、ニッパーを合わせた形をしていて、なかなか使いやすいです。
 ただし、本体からして鍛造ではなくステンレススチール製なので、若干強度に不安があります。 ピボット部ではなくプライヤー自体が、力任せに硬いものを回すときなど、僅かにへこむことがあるのです。

 あとはワイヤーカッター。ニッパーではなくハサミのような噛み合わせ方式で、しかもピボット部が完璧ではありません。 カシメが緩んだハサミで紙を切る感じです。 太い針金なら楽々切れますが、自転車などの細いワイヤーなどは、切れないか、切り口が非常に汚くなります。 チャージやスケルツール、コア、サージなど他のモデルも同様の造りでしょう。 さすがに専用の道具には勝てない「携帯性の高い代用品」の域を脱していない感じです。 全体的に見て完成度の高いツールなのは間違いないので、この点が非常に残念です。

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表と裏の見た目が同じ過ぎる

 左の写真は、レザーマンのウェーブ。表と裏の写真を載せています。マウスを合わせてみてください。 見ての通り、パッと見ではほとんど違いが分かりません
 一応、波刃ナイフのほうは、根元部分にギザギザが入っていますが、これではほとんど意味がありません。 暗闇で手探り用ですか?レザーマン夫妻!できれば、パッと見で判断できるようにしてほしいものです。

 というのも、やっぱりサッと出してサッと仕舞いたいじゃないですか。専用ケースまで付いているわけですから。 それなのに、ケースから出すたび「波刃ナイフはどっち?こっちか?あ、間違えた」…なんて『やってられない』んですよ!
 ケースに仕舞うたびに確認して、腰側をクリップポイントナイフにする…なんて、面倒臭いこともしたくありませんよね。

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たたんだまま出せるナイフ類とロック機構

クリップポイントナイフを開く様子。
レザーマン ウェーブ
 このウェーブの凄いところは、『プライヤーを閉じたまま、サッとナイフが出せること』です。 クリップポイントナイフ、波刃ナイフ、ヤスリ(木工・金属・ダイヤモンド)、ノコギリの4つのツールが該当します。 どれもプライヤーの『オマケ』ではなく、完璧な単独ツールとして十分の性能があります。 これらのツールはすべてロックが働きます
 特にクリップポイントナイフと波刃ナイフは、サムホールがあるため、片手で刃を開けます。 サムホールの形状も指の腹に合っていて確実に引っ掛かり、楽にナイフを開くことができます。
 しかもロック機構がナイフの根元部分にあるため、ロックの解除も、すべて右手で行うことができます。 左下の写真はロックする直前と、ロックされた状態のものです。 ロックを解除するには、このナイフの根元部分を押しながら畳めばOKです。 ポケットナイフによく採用される「ライナーロック」という機構では、ナイフを持った手だけで刃を閉じることはできません。 これはフレームロック。ビクトリノックスやウェンガーなどのツールナイフを使っていた人にとっては、感動モノです。 コンパクトで他のツールに干渉せず、確実かつ実用的な、完璧なロック機構です。


<クリップポイントナイフ>
 普通の直刃ナイフです。前モデルよりも厚さと幅が増し、頑丈になりました。 ナイフ形状はユーティリティ型と呼ばれ、汎用性が高く、どこでも使いやすいものです。 ナイフについては最早語る必要はないでしょう。 「きる」・「はぐ」・「さす」・「ほる」・「けずる」・「さく」・「おろす」などの基本作業をすべて賄える、 『人類最古にして究極の道具』です。
材質:ステンレススチール SUS 420HC
刃渡り:71mm、厚さ(最大):2.25mm、幅(最大):16.5mm
両刃、研ぎ方:フラットグラインド、ナイフ形状:ユーティリティ型

 刃渡りは71mmあります。理由なく持ち歩くと、余裕で銃刀法に引っ掛かるサイズです。 ビクトリノックスなどは刃長59mmですが、これではタウンユースでも短いほうで、アウトドアでは全く実用的ではありません。 たった12mm差ですが、刃をロックできることと、この長さの違いで、実用性が一気に豹変します。
<波刃ナイフ>
 セレーテッドナイフ・セレーションナイフとも呼ばれます。 波刃と聞いてもピンと来ないものかもしれません。 波刃ナイフは、直刃ナイフよりも優れる点があり、用途によって使い分けるのです。 代表的なのが、『ロープの切断』。 ナイロンロープなど、直刃だと刃がロープの表面を滑ってしまって、なかなか切れないのです。 この点、波刃なら一発で切断することができます。

材質:ステンレススチール SUS 420HC
刃渡り:72mm、厚さ(最大):2.25mm、幅最大:16.1mm、片刃

 あとは、『切れ味が落ちにくいこと』。 直刃ナイフは、肉などを切っているとすぐに切れ味が落ちます。刃に油脂分がこびり付くためです。 波刃ナイフならこのような心配はなく、切れ味も落ちにくいのです(切り口はギザギザになりますが…)。

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<木工/金属ヤスリ・ダイヤモンドヤスリ>
 マルチツールに限らずツールナイフでも御馴染みの、『ヤスリ』です。 よくあるツールですが、ダイヤモンドヤスリまで備えているとは、さすがはレザーマン。 ただツールが小さく、金属や木の板に整形には実用的ではありません。 逆に細かいところで威力を発揮するものだと思います。 自転車のパンク修理(パッチ当ての前にチューブをザラつかせます)。 釣り針のシャープナーとして。

ヤスリ面長さ:62.5mm、厚さ:1.75mm、幅:9.1〜13.1mm


<ノコギリ>
 ヤスリと同じくマルチツール・ツールナイフのド定番です。 やはり小さいですが、ノコギリの質は本物で、よく切れます。 裏技的なものとして、大根おろしとして使えるとアウトドア・ナイフ(参照1)の本に書いてありましたが…。 イマイチ実用性が浮かんできません。私の想定内では、最も使用頻度の低いツールです。

刃の長さ:48.3mm、厚さ:1.2mm、幅:8.3〜10.7mm

<ヤスリとノコギリの出しかた>
 ヤスリとノコギリに共通することは、ツールの先に爪を引っ掛けてツールを出すことです。 ロック機構やツールの閉じかたは、クリップポイントナイフや波刃ナイフと同じです。 ちなみに、ロックされるときには「パチッ」と確実な音がするので、 ロックされたかどうか不安ということはありません。先にも述べましたが、このロック機構の完成度には、目を見張るものがあります。

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側面の見た目もほぼ同じ

 ここで、サイドからの様子も見てみましょう。
 左の写真は、クリップポイントナイフとヤスリがある側面で、 左下は、波刃ナイフとノコギリがある側面です。
 表裏と同様、サイドもよく似ています。ノコギリが意外に薄く、逆にヤスリのほうは厚く、頑丈です。 機能的に考えるなら、ノコギリの薄さとヤスリの頑丈さは重要です。
 これらは当たり前のようですが、ビクトリノックスなどのツールナイフでは、 逆で、ノコギリが意外に厚く、木板を切る際に削り取ってしまう幅が太くなっています。 ヤスリのほうは先に別のツールが付いているとは言え、薄くて剛性に不安があるのです。
 実際に使うことは少ないとは言え、レザーマン ウェーブのほうが基本に忠実な機能性なのがうかがえます。
レザーマン ウェーブ:ヤスリ厚1.75mm、ノコギリ厚1.2mm
ビクトリノックス トラベラー:ヤスリ厚1.2mm(参考)


メインツールであるプライヤー

プライヤーを開く様子
 では、ウェーブのメインツールであるプライヤーについてです。この部分だけで4つもの機能があるそうです。 まぁ、この『ツール数』ってヤツは「それって別機能?」というのも含めて過剰に数を増やしてあるものですが。
 冒頭で述べたペンチの有用性。 ペンチは、登山・キャンプなどアウトドア全般で、エマージェンシーツールとして、非常に役立ちます。 例えばキャンプでの鍋つかみ。ソロテントのペグ抜きに。フィールドでの道具の修理。 これらは、ナイフではどうにもならないものです。あとは地震の際、脱出のためにドアのカギを壊す。 大型ナイフならともかく、ポケットナイフではナイフが折れるのが先でしょう。

波刃ナイフ。
ニードルノーズ
プライヤー
波刃ナイフも、エッジの反対側は真っ平ら。
ノーマルノーズ
プライヤー
波刃ナイフのエッジのアップ。
ワイヤーカッター/
ハードワイヤーカッター


プライヤーを開くと、不意にナイフが出なくなる仕組み

レザーマン ウェーブ
 このウェーブのスゴイところが、『プライヤーを開くと、ナイフがロックされる』ことです。 この仕組みはすばらしい。プライヤーの使用時の安全性を考慮したもので、全く以って感服
 プライヤーの軸とハンドル内に仕掛けがあって、プライヤーを開くと写真のように自動的にサムホール内に突起が出てきて、開けなくなるのです。 これだけ単純なパーツ構成で、オートで安全機構が働く工学デザインには、ただただ感心するだけです。 『ただの金物じゃないんだぜ』というわけです。
 シブい!さすがはレザーマンツール!!


プライヤーを開いてから出すツール

 これから紹介するツールは、プライヤーのハンドルに収納されています。 ほぼすべてのツールにネイルマークが付いていて、そこに爪を引っ掛けてツールを出します。 工夫を感じるのが、ネイルマークの配置です。 ツールごとに異なる位置にネイルマークがあり、誤って違うツールを出してしまわないようになっています。
 ビクトリノックスやウェンガーでは、ほぼ同じ位置にネイルマークがあり、ハサミを出そうとしてヤスリを出してしまうことがありましたが、 ウェーブではそのようなことはありません。この点に限ったことではありませんが、ツールナイフの弱点をとことん克服したツールだと思います。

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<缶きり/栓抜き・ワイヤストリッパー>
 これもツールナイフでは定番、缶きりと栓抜き
 ただ、このウェーブに缶切りや栓抜きがあるのは、イマイチ「しっくり」きません。 見ての通りウェーブは、ビクトリノックスのようなユーティリティ色ではなく、工具色が強いためです。 「ジュース」シリーズなら納得ですが、『ユーザーがキャンプサイトで忘れて困る道具』として想定されるのでしょうか?
 まぁ、質は本物。缶きりとしては優秀。栓抜きとしては使いにくいけど、瓶ビールの王冠を開けるなら楽勝です。

 忘れてはいけないのが、ワイヤストリッパーです。 ナイフのような刃がX字の形状になっています。配線を引っ掛けてカバーを剥がすのに都合のよい形です。 しかし、ワイヤーストリッパーは全く実用的ではありません。まず切れ味が悪すぎます。オマケ程度と考えておいたほうが無難です。

<ラージビットドライバー>
 標準でプラス・マイナスのドライバーがセットされています。 ソケットから黒い部分を引き抜くことで、純正のビットキットと交換できます。 ただし、ソケットが六角形ではなく少し潰れたような形状をしているため、市販の6.35mm交換ビットはセットできません。 …つっても私の場合はプラス・マイナスドライバーくらいしか使わないので、それほど不満はありませんが。
 この構造の不満点は、ソケットにビット(ドライバー部分)を固定する機構です。 一応、展性を利かした金属で『押さえて』いますが、少し不安が残ります。磁石かベアリングで押さえる構造が欲しいところです。


<ハサミ>
 やってきました、ハサミです!こればかりはどんなシーンでも活躍するツール。
 まず、収納され方がすばらしい。ハサミを開ききった形で収納され、ペンチの作業にまったく干渉しません。 もちろん切れ味は抜群です。 スプリングも頑丈で、全く不満なし。ビクトリノックスのようにチャチなバネではありません。
 強いて不満をあげるなら、『刃の根元部分が直角に終わっていること』でしょうか。 紙を長く切ろうとすると、切れた紙の端がこの直角部分に引っ掛かり、思うように切り進むことができないのです。 左右に切れた紙を上下にうまく振り分けるように改良してほしいですね。


<スモールビットドライバー>
 いくらなんでも小さくしすぎ。スモールというよりミクロビットドライバーです。 普通にメガネドライバー並みの小ささで、逆に一般的でありません。
 また、ラージでも触れましたが、ビットドライバーの部分が落ちやすいのです。 これも金属の展性で押さえてはありますが、ラージよりも遥かに緩く、気をつける必要があります。
 用途としても、メガネドライバーサイズなので、メガネ以外では精密機器向きということになりますが、 さすがに電子機器や時計などの精密機器を、ウェーブで代用する気にはなりませんね。


<マイナスドライバー(大)>
 マイナスドライバーであればラージビットドライバーで十分…のはずですよね? でも、工作や整備を行う人ならピンとくると思いますが、大きいマイナスドライバーは「こじ開け」とか、 ホチキスの針を外すとか、いろいろな用途に向きます。 つまりビットドライバーではドライバー部分に負担をかけてはマズイというわけですね。 先が平らなので、板などに押し当てて物を押し込んだり剥がしたりする用途にも使えます。


<ランヤードリング>
 簡単に言えばキーリングです。ウェーブのツールで唯一、ロック機構が働きません。これをツールと呼ぶかは疑問ですが…。
不満なのは、リングをハンドルから出すと他のツールが『ゆるくなる』ことです。 本来は少し固めのツール類が、逆さにすると勝手にクルッと回ってしまうくらい緩くなります。
 あと気になるのが、別売パーツの"ランヤードリング"です。 「あれ。本体に標準装備されているなら別パーツを売る理由は…?」というわけです。


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ハンドル内ツールのロック機構

 プライヤーを開いてから出すツールも、ランヤードリングを除いて、すべてロックが利きます。 ロック機構はバックロックをコンパクトにしたもので、解除するにはレバーを押しながらツールを戻します。 クリップポイントナイフと違い、ツールを戻すには両手が必要ですが、別段問題はないでしょう。
 なお、ロックするときに「パチン」と確実な音がします。
 ウェーブのツールには、ロックの必要性が疑わしいものもあります。ハサミなんかはその典型例ですが、 実は(ほぼ)すべてのツールにロック機構がつくことで、返って全体的にシンプルな構造になっています。

 このシンプルさは、ツールナイフ・マルチツールの宿命である「メンテナンス性の悪さ」を大幅に改善しています(後述)。

分解して完璧なメンテナンスが可能

 レザーマン ウェーブが、数ある折りたたみナイフの中で、最も優れるのが『分解してメンテナンスできる』こと。 ビクトリノックスやウェンガーを長く愛用している人は、必ずメンテナンスの問題にぶち当たるはず。 それは研ぐことではなく、稼働部の清掃です。 ツールナイフユーザーから稼働部が錆びて、ツールが開けなくなってしまった経験を聞いたのは、一度や二度ではありません。
 ウェーブは、ホームセンターで誰でも入手できるドライバーで、稼働部からパーツ1つに至るまで細かく分解して、メンテナンスできます。 もちろん、難しい技術や工具は要りません。ケガと部品の紛失に気をつければ、誰にでもできるのです。 分解・組立は、メーカーの無償保証対象外になります(メーカーに確認済み)。自己責任で実行してください。

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必要なドライバーと分解方法

 ウェーブの分解に必要なのが、『へクスローブ ドライバー(トルクスレンチ)』。サイズはT-10で、 必ずいじり止め用の突起(タンパープルーフ)に対応しているもの。これが2本必要です。いわゆる「六角」ではありません。 雪印マークの形をしたヤツです。価格は場所(物価)と質(製品ランク)や種類によるけど、郊外のホームセンターなら2本で1,000円しなかったはずです。
 2本のうち1本をウェーブのネジ穴に挿して、もう1本を反対側に挿します。そして両方のレンチをそれぞれ左回りに回せば、簡単にネジが緩むはずです。

 ウェーブのピボット部分(ネジ穴のあるパーツ)は、雄ネジと雌ネジで一組です。雌ネジを固定して雄ネジを緩めたり締めたりすれば、分解と組立ができます。 注意しなければならないのは、逆に雄ネジを固定して雌ネジを回してはならない点です。最悪の場合、ネジが破損します。
 しかしやっかいなことに、製品を普通に見たのでは、雄ネジと雌ネジの区別がつきません。そのためネジの破損を防ぐために、両方を一度に回すと安全です。
 なお憶測ですが、チャージ(Charge)TTi、サージ(Surge)、スケルツール(Skeletool)シリーズ、スクォート(Squirt)PS4・ES4も、ウェーブと同様に分解できると思われます。

ハンドル内ツールの分解・組立

 ハンドル内のパーツを分解してみました。
 外からは見えないパーツ「ワッシャー」が出てきます。このワッシャーはツールとツールの間にセットされています。 なお回転するツールの軸穴は完全な円形ですが、軸とワッシャーは円形ではなく、円の上下をカットした形をしています。 こうすることで、各ツールは回転しても、ワッシャーは回転しないように作られています。 つまりワッシャーは、ツールの間に回転しない板を挟むことで、1つのツールを出したときに隣のツールまで一緒に出てくることを防止し、 かつツール同士の摩耗を防いでいる、非常に重要なパーツなのです。

 反対側も分解してみましょう。
 ハサミ側はツールが3つ(+ランヤードリング)なので、間に入るワッシャーは2つです。先のラージビットドライバー側より、少しだけ複雑です。 分解しないと分かりにくいのが、ハサミのスプリングです。 ハサミとそのスプリングは別のパーツで、かつ一体でセットできるように凹凸があるのが分かります。
 ちなみに、ツール単体で最も錆びやすいのもハサミとスプリングの間で、重なり合っているのに動かないためです。

 錆びを落として清掃後、雌ネジ側の軸をハンドルにセットしてツールとワッシャーを軸にはめていくわけですが、 軸とワッシャーはセットする向きが決まっているため、ワッシャーは軸にセットしにくい点は注意が必要です。 しかも薄板なので紛失・破損しやすいです。精密ピンセットがあると便利です。イライラせずに、落ち着いて作業しましょう。
 外側のネジを締める強さですが、ツールを開くのに抵抗がない、ギリギリの強さまで締めておきましょう。 注意したいのが、必ず雄ネジ側を締める点です。雌ネジはトルクスレンチで固定だけしておきます。

プライヤー・ナイフ側の分解

 プライヤーとハンドルをつなぐ軸を分解してみました。
 ここでもワッシャーが出てきます。ハンドル内ツールのワッシャーとは形状が異なり、完全な円形です。 役割的にはツールの摩耗を防ぎ、ナイフ類を開閉する際に軸のネジを緩めないようにしている、やはり重要なパーツです。
 構造はハンドル内ツールより遥かに単純で、簡単。組み立てるときに雄ネジを締める注意点は変わりませんが、 ウェーブは、支軸がなくても、ハンドル内でナイフ類が定位置で固定されるように作られているため、 プライヤーとナイフ類を収納した状態で組めば、あっさりと支軸(雌ネジ)が穴を通ります。

 どういうことか説明しましょう。上の分解展開図を見てください。
写真のノコギリ、波刃ナイフの根元に凹(ヘコミ)が、そしてハンドルのロック部分には凸(突起)があるのが分かります。 ナイフ類が閉じてハンドルに収納されているとき、この凹凸が合わさり、不意にナイフ類が出ないようになっているわけです。 支軸がなくても凹凸が合うことで仮固定されるため、ワッシャーの位置にだけ気をつければ、組み立ても比較的容易なのです。

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分解できないパーツ

分解できないパーツは、以下の通りです。これらは、2つ以上のパーツで作られているのが一目瞭然ですが、 分けようとすると、素人では分解ではなく破壊になってしまうため、分解できません。
1.プライヤー本体の左右
2.ハンドル本体と、ライナーロックレバー
3.ハンドル内:ライナーロックのスプリング・メインブレードのロックピン
4.ラージビットドライバーのビット受けと、ビット押さえパーツ
5.スモールビットドライバーのビット受けと、ビット押さえパーツ
6.ハサミ本体の左右

錆び落としとメンテナンス

 あちゃ〜。錆びてます。掲載写真は3回目の分解で、前回から2年は経過しています。 使用頻度や保管状態によりますが、継続的に性能を維持するには、1年ごとに完全な分解・清掃をしたほうがよいかもしれません。
 錆び落としは、サンドペーパー(紙やすり)研磨剤があれば、比較的簡単です。 まず、分解したパーツに付いた油脂や汚れを、ザッと水で擦り洗いをします。 次に、#800程度の耐水ペーパーで錆びを擦り落とします。 錆びが落ちたら、パーツに付いたキズを、#1000〜#2000の耐水ペーパーで完全に消します。 最後に金属研磨剤を使って表面を磨けば、錆び落としは完了です。

 この方法で錆を落とすと、磨いた部分は鏡面仕上げになります。 ウェーブは、ハンドルを除いて元々サテン仕上げなので、磨くことで風合いが変わってしまいますが、 錆びたまま放っておくとマルチツールとして機能しなくなるため、仕方ない部分として割り切るしかないと思います。
 次に、錆び止めです。刃物用の油をごく薄く、塗っておきます。 「ごく薄く」というのが重要で、塗りすぎると滑るだけでなく、油がホコリや汚れを吸着し、油が乾いたときに返って錆びやすくなるため、 油を塗ったらパーツごとに布巾で拭き、表面に油が軽く残る程度で十分です。この錆び止めは、錆びていなくても必ず行ないます。

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オリジナルのツールを搭載することも可能か?

 ウェーブを分解して見ると、ツールナイフに比べてシンプルな構造で、ツールの形状も、収納時にプライヤーに干渉しないように考えられているのが分かります。 逆に言えば、ツールの厚さ、ハンドルの幅、プライヤーとの干渉にさえ気をつければ、パーツを自作することも可能です。 もちろんナイフのストック&リムーバブル製法を熟知し、鋼材と加工技術を持つ方に限られますが。残念ながら、私自身はそんな技術も素材も持ち合わせていません。
 ただし恐らくですが、ウェーブは上位モデルのパーツとサイズ的に互換性があるため、 半壊したチャージから154CMのナイフだけウェーブに取り付けるなんてことは、私でも簡単にできます。 こう考えると、葛藤と夢が広がります。誰でも一度は、「自分が使うツールだけを搭載したツールナイフが欲しい」と思ったことがあるのではないでしょうか。
 例えば、ナイフレスのモデル。日本の街中で携帯するには適しているでしょう。
ハーフセレーションのナイフを搭載。反対側にはもちろん、好きなオリジナルツールを搭載します。
使わないノコギリを廃して、交換ビットの搭載スペースに。
 ヤバイです。妄想が広がる一方です。ティム・レザーマンに会えたら、拙い英語で一生懸命アピールするのに。 ストック&リムーバブルをマスターしているカスタムナイフ界の方へ!是非ウェーブ、いやレザーマン向けのカスタムパーツを世に送り出していただきたい。

ウェーブの製品パッケージ

 製品のパッケージです。
 外箱はレザーマンのイメージカラーであるブラックとイエロー。 箱の中には、製品本体(ウェーブ)と日本語と多国語の説明書、ステッカー、ケースが入っています。 日本語の説明書だけが別途用意しているものは珍しいです。文章と絵図のバランスがよく、文章もしっかりしています。
 ステッカーも純粋に嬉しいですね。紙ベースではないステッカーです。 なお、ウェーブを始めとしてチャージ・シリーズなど、レギュラーサイズ以上のツールには付属しますが、 マイクラやスクォートには、ステッカーは付属しないようです。


25年のメーカー保証

 ウェーブ、いやレザーマンツールの全製品には、25年の製品保証が付いています。 1年で切れる電化製品ってなんだろうという気になります。25年というと40過ぎのオッサンですね私は。 しかし多くのナイフメーカーは永久保証を掲げているため、実は短い保証期間です。ただ、実態を考えてみると、
・25年でツールが使えなくなるわけではない
・どのメーカーも「材質・製造時の欠陥の場合のみ」保証。欠陥を確認するなら25年で十分。
・そもそもツールの寿命より自分の寿命のほうが短い
 つまり、25年保証で全く問題ありません
 「分解したら保証範囲外になるか」をレザーマンに聞いた際に、「ネジに着いている赤いインクのようなもので、分解されたか見分けるのか」も訊ねました。 お答えいただいた担当者は言葉を濁しながらも「まぁそうです」と言ったため、 雄ネジの先に着いている赤いインク(?)で、分解の有無を見分けるようです。
 ただ、これでどう見分けるのかは不明。 イマイチ判然としませんが、メーカーの推奨外を驀進しているユーザーからの質問に、よく答えていただきましたとお礼を言いたいくらいです。
 ちなみに、この赤い塗料(?)は硬く、水で溶けたりしません。空気中の酸素で変色するとか?でしょうか。

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付属のケースも完璧な機能性を持つ

 ウェーブには、専用のレザーケースが付属します。文句の付けどころに困る、非常に完成度が高いケースです。
 まず、フラップ(フタ)を留めるのにスナップボタンを採用していること。この手のケースには面ファスナー(マジックテープ)がよく採用されますが、 面ファスナーは剥がす際にバリバリと煩く、しかも寿命が短いです。ウェーブのレザーケースは金属製ボタンで長く使え、パチッと音がするだけで確実にフラップを固定します。
 次に、絶妙なサイズと素材選び。ケースに遊びがあると歩行中にナイフが動いて鬱陶しいし、キツイと取り出すのが大変と、携行派には悩ましい部分ですが、 このケースはマチにゴムバンドを採用し、ジャストサイズながらケースとウェーブの間に指が入るため、出し入れにストレスを感じません。
 さらに、ケースの底にはプライヤーを出せる穴が空いていて、プライヤーを開いたままケースに仮入れすることができます。 これができるのもマチが伸びるためです。ただし、プライヤーを開いたままケースに入れても、フラップを閉じることはできません。
 最後に好みの分かれるかもしれませんが、ベルト通しがケースと一体であり、縦横どちらでも付けられること。 ベルト通しが別パーツだと、走るとケースごとブラブラ揺れて、非常に鬱陶しく感じます。ベルトから少し離れた位置にケースがあるため、 狭いところをすり抜ける時に、ケースが引っ掛かることも多いです。


参考・引用

 ・キャンプで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(2001年、初版)
  鈴木アキラ・著 山と渓谷社・発行
 ・実戦主義道具学(2004年、初版)
  ホーボージュン・著、株式会社ワールドフォトプレス・発行、p.13-16
 ・アウトドア流防災ブック(2004年、初版)
  BE-PAL編集部・編、小学館・発行、p.25
 ・レザーマンツール・ジャパン ウェーブ取扱説明書(2005年購入)
 ・レザーマンツール・ジャパン オフィシャルウェブサイト
  http://www.leatherman-japan.com/

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