Ultra Light Hiking Goods  -Stove-
2012.2.25掲載
登山装備の軽量化トップ > 装備別:登山装備の軽量化 > 野外調理器具(ストーブ・バーナー本体)

 何のインフラもない野外で、温かい食事ができる。 これこそが調理道具、火器を持っていく原動力でしょう。山頂でも、海辺でも。 誰しも、いつものインスタントがやたらと旨くて、痛快に感じたことがあると思います。



ガスストーブでなくてもよい

 クッキング用品のメインとなるのは、何と言っても火器(ストーブ・バーナー・コンロ)です。 ここで一般的なのは、やはりガスストーブです。 そしてその構成は、アルミないしチタンの縦長クッカーを組み合わせたものが大半でしょう。 ガスストーブ以外で、一般に『状況によっては使える』とされているのは、ガソリンストーブ(マルチフューエルストーブ)くらいでしょう。 ただしガソリンストーブは、集団での長々期縦走や厳冬期登山、オーロラ観測や南北極地などの海外遠征でもしない限り、完全にマニアの自己満足です。 あのエンジンにも似た装備に愛着が沸くのも、理解できますが。

 実際のところ、最近のガスバーナーやガス缶は、燃焼性能やコンパクトさ、軽さも進化していて、-10℃などの結構な低温下でも問題なく使える製品まで存在します。 このため一般的な登山では、半ば唯一の正解となっている節があります。 それゆえに、ガスストーブの数多い弱点はあまり語られずに放置されています。
 弱点1.圧電着火装置が故障しやすく、高山帯や寒冷地では作動しにくい。
 弱点2.半端な残量のガス缶の処理。
 弱点3.登山行程に対して、持参するガス缶の数が分かりにくい。
 弱点4.出先でのガス缶の入手性が悪い。
 弱点5.飛行機にガス缶は載せられない。


 弱点1に関して、圧電着火装置を外してフリント式ライターで代用すれば解決します。弱点2に関して、日本では違法ですが、詰め替え器具を使えば解決します。 3、4、5は致命的とまではいかないものの、根本的な問題なので、今後の進化で解消されるとは考えにくいです。 それでもガソリンストーブと比べれば格段に扱いが楽なため、登山初級者にはガスストーブ以外の選択肢はないような風説があります。 でも、これって本当でしょうか。

 もちろん、炊く・茹でる・炒める・煮る料理が、あなたの登山スタイルの絶対条件なら、 あるいは3〜4人以上のグループで共同装備として使うなら、ガスストーブの有用性は否定しません。 ここでガスストーブを使っている方に、シンプルな質問です。『何を作ってますか?』

 3シーズン環境のソロ・ペア登山で、お湯を沸かすくらいしか使わないなら、ガスストーブは完全にオーバースペック。 重くて嵩張る装備です。逆に考えると、軽くしたいなら湯沸かしだけで済む食事を選ぶことです。 実際に山小屋の自炊場やテント場でも、お湯を沸かす相当のことにしか使わない方も、多く見かけます。 そのうえで、どうするか。アルコールストーブや固形燃料ストーブを用いるのです。

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アルコールストーブについて

 アルコールストーブは、ガスストーブが進化してから「使えないストーブ」のレッテルを貼られた製品分野です。 登山用のストーブを紹介する書籍・雑誌のページでも、アルコールストーブは「こんなものもある」的な扱いであることがほとんど。 実践するまで、私自身も「さも使い物にならないのか」と思い込んでいました。
 よく聞く悪評が、「重い」「火力が弱く、いつまで経ってもお湯が沸かない」「風に弱い」というもの。 製品と使い方によっては妥当な意見かもしれませんね。ひとつひとつ紐解いていきましょう。


<重い?>

 これらの評価のほとんどが、トランギアのアルコールバーナーしか知らない方々によるものです。 エバニューのチタンアルコールストーブが発売されるまで、トランギアしか登山用品店で売られてなかったし、重量は110g。 しかも別にゴトクを必要とします。軽量なガスストーブが約50gから販売されていることを考えると、重いと言われても仕方ないかもしれません。 しかし、ガレージメーカーから発売されているアルコールストーブは全くの別物です。 私が使っているMLV トリニティライトは、ゴトク付で20gです。

≪いくつかのアルコールストーブから、MLV トリニティライトを選んだ理由≫
 軽さも理由のひとつですが、エバニューのチタンアルコールストーブと違ってゴトクを標準搭載していること、 T's StoveのWWサイドB Comboよりも不整地での安定性に優れることが、個人的にポイントが高かったです。
 あとは、楽に着火できること。液体のままのアルコール燃料は、ライターの火を近づけても着火しにくく、ましてやファイヤスターター単体での着火は無理と感じました。 カーボンフェルトを採用したアルコールストーブは着火と消火が楽に感じたことが決定打です。
 余ったアルコールの回収機能にも惹かれたものの、実際には手間と制約が多く、全く使ってません。


<火力が弱い?風に弱い?>

 なおガス・ガソリンストーブに対して、火力が弱く、風に弱いのは、紛れもない事実です。ちょっとの風でも揺らめき、息を吹きかけるだけで消火できるヤワさです。 でも、「いつまで経ってもお湯が沸かない」わけではないです。それは誤った使い方による評価と言わざるを得ません。 風に弱い点をウインドスクリーン(風防)を使って熱効率を向上させると、すぐに沸騰します。 もちろんガスストーブ、特にジェットボイルよりは時間が掛かるかもしれませんが、そんな一分一秒を争うようなスピード、要ります? 私が使っているウインドスクリーンは、同じくMLVのチタニウムフォイル15gなので、ストーブ本体と足して35gです。


さて。私の使っているアルコールストーブ本体とウインドスクリーンを足すと、最軽量クラスのガスストーブであるプリムスのP-114ナノストーブとの重量差は15g。 ここまでなら大した軽量化ではないと考えるかもしれませんが、圧倒的に軽量なのは、この先の話です。

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アルコール燃料の運搬ボトル

 次に、アルコールを運搬するための容器です。 液体燃料用のボトルと言えば、ガソリンストーブのものが思い浮かびます。 でもアルコールは揮発性が低く、液体のままでは着火が難しいくらい安全性が高いです。 つまり持ち歩く容器は、およそ水が入れば、ペットボトルやナルゲン、プラティパスでもOKです。

 私は1〜2泊ではPE広口ボトルを使っているので、何と21gです。 10日間以上の長期縦走に対応できる500mlのプラティパス ソフトボトルでは、むしろ軽くて20g。 それに対してガスカートリッジは、空の110サイズでも90g。250サイズだと150g。いかに軽いか、理解できましたか?
 なお、燃料用アルコールは、全国のドラッグストアで手に入ります。売られているボトルの材質はポリエチレン(PE)なので、最も無難なボトルの材質はポリエチレンです。 ペットボトル(PET)やポリプロピレン(PP)では一抹の不安があるのは事実。 別段、問題が生じた経験はありませんが、念のため、登山中以外の自宅保管はポリエチレン製ボトルをオススメしておきます。

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固形燃料ストーブ

 固形燃料と言えば、エスビットが有名です。 これもアルコールストーブ同様、火力が低く風に対しても弱いため「緊急用にすら、持ち歩く気にならない」とか酷評され、一般論ではストーブという概念すら入っていません。 カワイソウに。
 風に対する弱さをウインドスクリーン(風防)で補う点は、アルコールストーブと同じです。 そして、最も軽量性に優れるのが大きな特徴です。液体を貯留する構造を必要としないため、ストーブ本体は8gとかも売られています。十円玉2枚より軽い…。 しかもストーブ本体の高さを抑えられるので、ウインドスクリーンも小さくて済むため、総合的に見ても圧倒的に軽量になります。
 また、名前の通り、燃料が固形なので、フィールドでの燃料漏れや、うっかりミスでこぼすことも起きません。 絶対的な軽量性と燃料の扱いやすさが特徴です。
 アルコールストーブの元祖がトランギアのアルコールバーナーなら、固形燃料ストーブの元祖はエスビットのポケットストーブでしょう。でもこれは80g以上あります。 同じくエスビットから売られ、一般的な登山用品店でも買えるのがチタニウムストーブです。14gと、これはこれで軽いのですが、ゴトクの安定性に難あり。 ガレージメーカーであるT's Stoveで入手できるUL WW 固形燃料ストーブが、私の知る限りでは軽さ(8.4g)・ゴトクの安定感・使い勝手の総合でベストです。

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固形燃料の運搬ケース

 液体ではないといっても、エスビットを含む固形燃料の多くは吸湿性があるため、そのままでは燃焼性能が落ちていってしまいます。 このため簡易密封できる容器に入れて持ち歩くべきで、登山中はチャック袋が一番適していると思います。 自宅で保管する際は、ナルゲンボトルなどのしっかりした密閉容器に入れておきましょう。 またエスビットだと、スタンダード用とミリタリー用がありますが、大きさが違うだけなので、小分けに使えるスタンダードタイプをオススメします。

特に長期登山で重量差が生じる

 何となく、アルコールストーブと固形燃料ストーブの軽さが分かってきたでしょうか。 ここでガスストーブを主体とした構成の重さを見てみます。

<登山用のストーブの構成と重量比較>
アルコールストーブ
 MLV トリニティライト 
固形燃料ストーブ
 T's Stove UL WW固形燃料 
ガスストーブ
  Primus P-114  
 ストーブ本体
20g
8g
51g
 空の燃料容器
20g
2g
 110缶:90g、250缶:150g 
 ウインドスクリーン 
15g
10g
0g
 メインの着火機器
11g
11g
13g
 予備の着火器具
6g
11g
11g
 合 計
72g
44g
165g〜225g

 以上のように、その差は歴然です。 アルコールストーブと固型燃料ストーブで構成される調理器具は、すべて合わせても空の110缶よりも軽いのです。 もちろん、日数が多い長期縦走になればなるほど、持参するガス缶の数は増えるので、この差は開いていきます。そこそこ料理する人は、3〜4日で250缶ひとつを使い切ると思います。
 ここで今までガスストーブ一辺倒で、登山中に相応の料理をするという方にも提案したいのが、複数のストーブを持参すること。 登山中に火器を持っていて、お湯を沸かさないということはないと思います。 炊く・焼くときはガスで、沸かすときはアルコールという風に使い分けても、長期縦走では複数のガス缶を持参するよりも軽くなりますし、ガス缶代を浮かせることできます。

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アルコールと固形燃料なら、どちらのストーブがよいか

 結論から言えば、好みでどうぞ。私はアルコール派です。 本来の軽量性から見れば、エスビットで構成したほうが軽いのは明白です。本体・風防・ライターのセットで、約20gの差が生じます。 ちなみに、ガスストーブ構成とは異なり、この差は長期縦走でもほとんど変化しません。
 アルコールが優れるのは、着火の容易さ、匂いの少なさ、ススが出ないことと、着火の瞬間を除いて無音、ランニングコストです。

 エスビットはマッチ一本で着火できるように言われていますが、完全無風化でない限りは絶対に不可能で、ライターなどで炙る必要があります。 このことから、強風化での迅速性やリカバリーに差が出ます。 もし素早く着火したいなら、少量のアルコールを振りかけてから着火すれば解決します。 ただ、そのための超ミニボトルの重さは4〜6gほどあるため、便利さのために重くなっていくなら、始めからアルコールストーブにすればよいのでは、というのが私の考えです。 また、ライターが故障した際のリカバリーとして、別種の着火器具を用意しておくべきですが、リカバリーも結局ライターにせざるを得ないことも、不満点の一つです。 なおカーボンフェルトを用いたアルコールストーブなら、ファイアスターター(火花を散らせる道具)で十分に着火できます。

 また固形燃料は、燃焼のときに匂いを生じます。テントの前室で使うと、目が痛くなったり、気持ち悪くなることもあります。 アルコールにも独特のアルコール臭はありますが、御馴染みのアレなので問題ないでしょう。
 ただ、やはり換気には注意です。テント内で使うときではなく、ウインドスクリーンを使うときの話です。 MLVのチタニウムフォイルは、自分で穴空け加工するのが常識なのですが、「フィールドはいつもデコボコだから」と、そのまま使っていました。 でも真っ平だって当然あるわけで。アルコールストーブなのに、臭い!目に染みる!ということが何度か。風に弱いからって、タイトに囲いすぎないように気をつけましょう。

 あとは、ススの発生。エスビットではクッカーの底が汚れますし、そのままザックに収納すると、他の装備まで汚れます。 使ったあとに拭けば解決しますが、拭く道具や消耗品を使えば、結果として重くなります。アルコールストーブでは、この手の問題は皆無です。

 最後に燃焼の音。「エスビットは音がしない」という表現がメーカーHPで見られますが、間違いです。 固形燃料は、ガソリンストーブはもちろん、ガスストーブやネイチャーストーブよりも静かですが、アルコールストーブの無音っぷりには敵いません。 着火の瞬間に「ボッ」と音がするだけで、自然消火の瞬間まで、ほぼ無音です。
 「たかが音だろ?」と思われるかもしれません。 でも衣擦れ・天幕のバタつき・話し声・歩くとき…と人工の音が溢れる中で、私が最も忌み嫌い「邪魔された」と感じるのはバーナーの音なんです(ケータイ着信音とかは論外)。 特にキャンプ中ならまだしも、山頂なんかでは。理解されにくいかもしれませんが、自分から1mと離れていない所から発生する音ですから、自然を満喫するためにも、静かであるという機能は重視したいと考えています。

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燃料消費量を計算しよう

 アルコールストーブや固形燃料ストーブでは、使う燃料の綿密な計算ができます。 どんなストーブを使うにしても、一回の食事で使う燃料を把握することは重要です。
 ただガスストーブでは作れる調理は幅広く、一食あたりの燃料使用量はおよそでしか分からないと思います。 アルコールや固形燃料のストーブでは、「お湯を沸かす」という目的がはっきりしているため、何mlの水を沸かすかによって使う燃料をきっちり計算できるわけです。 一食あたりの燃料使用量が分かったら、一日あたり、登山行程あたりの量もすぐに割り出せます。あとは予備を入れて持参すればよいわけです。

<アルコール燃料の消費量(あくまで目安)>

 MLV トリニティライトのアルコールストーブモードでは、アルコール燃料を10mlも使えば、十分に200mlの水を沸かせます。 どの目的にどれくらいの回数を使ったのかは覚えていませんが、夏季5泊6日の縦走では、150g(190ml)しか使わなかったというメモが残っています。 …というか、アルファ米雑炊を作ったのが10回なのは明白で、それ以外はコーヒーを飲むために沸かしたことになりますね。 ちなみに、上記の150gに予備は入っていません。実の消費量です。同行程なら200gほど持参すれば事足りますかね。

<アルコール燃料の比重計算式>
(ケンエーの燃料用アルコール:メタノール76.6%・エタノール21.4%・イソプロパノール0.3%)
アルコール燃料 1ml = 0.79g
アルコール燃料 1g = 1.265ml

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最も手に入れやすい燃料

 さらに、アルコール燃料は入手性が優れます。 よく、ガソリンストーブの利点としてガソリンスタンドで燃料が入手できるとありますが、アルコールストーブにも当てはまります。
 全国の薬局・ドラッグストアで、専用燃料(燃料用アルコール)を買えます。 ここで、専用燃料であるところがポイントです。ガソリンスタンドで入手できるレギュラーガソリンは、ストーブにとって代用品だということです。 さらに、度数の高いお酒を使う手もあります。 一般の入手性と度数の高さから、スピリタスというウォッカが適していますが、飲める酒なので、燃料計算は難しくなってしまうかもしれません。

アルコールストーブは、環境にも良い

 余談ですが、カーボンニュートラルという言葉をご存知でしょうか? 簡単にいうと「生成・運搬・消費でトータルに考えても、地球温暖化の原因である二酸化炭素を出さない」ことをいいます。 アルコールは、カーボンニュートラルが実現できる燃料で、他には木炭や薪なども含まれます。

 ハイブリッド車がいくら環境性能に優れるといっても、原料調達から製造・輸送の過程で、すでに絶対にペイできない化石燃料を消費しています。これはソーラーパネルや風力発電も同様です。 しかしアルコールは、産業革命以前から生成技術(蒸留)が確立している、完全なカーボンニュートラルを実現可能な燃料なのです。
 もはや定着したといってもいいでしょうか、登山やバックパッキングでも、環境への負荷を減らそうという考えがあります。 アルコールストーブは、ガソリン・ガスストーブと比べて、圧倒的に環境負荷が少ないことは明白です。 自然が自然のままだから成り立つ趣味なわけですから、環境のことを考えてストーブを選ぶのもアリだと思います。

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<このページの注意点>
 当ページおよび当コンテンツは、登山用品の軽量化について書かれています。 ただし私自身、登山はベテランでもない初級者であり、これらの情報を参考にするのは閲覧者様の自由ですが、必ず能動的に装備を選んだ上で行動して下さい。
 また、当コンテンツの趣旨や姿勢、対象としては、ごく初心者レベルかつ一般的な登山および道具の特性、その選び方を理解しているが、 そろそろ「自分なり」に向けて一歩踏み出したい方を対象にしており、やや派生した装備選択・スタイルのひとつとして「装備の軽量化」を勧めている、というものです。
 よって、私自身が「ごく一般的な登山装備の基礎知識」と判断したものは、コンテンツが冗長的になることを防ぐために、あえて割愛している部分も多々あります。これら初心者向けのウェブサイトは優れたものが沢山あるので、そちらを閲覧してください。

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