高性能携帯浄水器、
MSR ミニワークス EX(MiniWorks EX)の紹介です。
日本は水道水がそのまま飲める珍しい国ですが、ライフラインが止まったときの対策はとれていません。
「蛇口をひねれば水が出てくる。」「自販機でいつでも水は買える。」
そんな当たり前のことが、
大地震などの大規模災害では、いとも簡単に崩れ去ります。
自然の猛威に対して、
備えがなければ人は無力だと思い知らされます。
さらに近ごろ、
国内の湧水は安全ではないといわれています。
熱湯でも死なない細菌や重金属などが含まれる地域が拡大しているのです。
また、専門書の飲料水の入手方法はどれも面倒で、都市災害やアウトドアでは現実的ではありません。
高性能な浄水器、
MSRのミニワークスEXがあれば、誰でもできる簡単な操作で、
いつでもすぐに安全な飲料水が手に入れられるようになります。
キャンプや登山を趣味にする人でも、必須感が薄いために持っていないことの多い携帯浄水器。
安心を買う意味でも、決して高くない買い物だと思います。
<テクニカル・データ>
MSR ミニワークス EX
( ) | 項目 | 実測値 | 公表値 |
(A) | 製品の高さ(最大部) | 207.0mm | - |
(B) | 突起部を除く製品の高さ | 203.3mm | 190mm |
(C) | 本体の太さ | 69.5mm | 70mm |
(D) | ハンドルを含む幅 | 110.1mm | - |
(E) | 吸水ホースの長さ | 120cm | - |
(F) | 吸水ホースの外/内径 | 8/5mm | - |
(G) | ホース取付口の太さ | 7.0mm | - |
(H) | 本体と吸水パーツの重さ | 440g | 456g |
(I) | すべての付属品を含む重さ | 498g | - |
(J) | フィルターの重さ | 122g | -g |
(K) | 構成パーツ数(H) | 23点 | - |
MSRのホームページ(英語サイト)を見ると、
携帯浄水器にもいろいろとラインナップがあるのが分かります。ここで紹介する
ミニワークスEXは、MSRの携帯浄水器の中では古いモデルに
分類されます。他のシリーズより優れる点は、ろ過水量が多い(公称2,000L)=フィルター寿命が長いこと、フィールドメンテナンスが
容易で長く使える点にあります。以下にシリーズの特徴をまとめておきます。
MIOXは、ポンピング不要で99gと軽量ですが、薬品で殺菌する方式なので、完全殺菌には菌の種類に応じて15分〜4時間も待つ必要があります。
また殺菌キットを含めると325gとそれほど軽量でもありません。電池や薬液を用いる時点で、消耗品に対する不安と操作の難しさが付きまといます。
ハイパーフローは、おそらくMSRの携帯浄水器の最強版の位置づけで、ろ過水量は公称1,000Lですがフィールドメンテナンスも可能で、
ろ過速度に優れて(毎分3L)います。209gと軽量でろ過能力もミニワークスEXと同じです。
スウィートウォーターは、ミニワークスEXの次点的ラインナップです。ハンドルが組み立て式でコンパクトにできます。
しかしフィルター寿命は750Lと少なめで、吸水と出水ラインがホースだけなのでシステムとしては不満が残ります。
製品パッケージと付属品
MSR ミニワークスEXのパッケージです。
この状態でウィンドウに入れられ店頭に売られていました。あきれるほど簡素なパッケージです。
特に製品本体がむき出し…。微量ですがホコリは被っているし、いいの?
「あのぉ、13000円くらいしたんですけど…(-_-;)」ってMSRに言いたいです。
現在(2009.2.25確認)は違うパッケージデザインになってますが、製品本体がむき出しなのは変わっていませんでした。
安い製品ではないと思うのですが、せめてビニール掛けを行ってほしいです。
パッケージから取り出したものを広げてみました。
(左上)吸水用ホース・吸水フィルター
(左中央)スクラブパッド
(左下)取扱説明書
(中央)ミニワークスEX本体
(右)スタッフバッグ
本体以外の付属物も箱の中に入っていただけです。
「なくならないように、袋にまとめていれておく」…なんて気遣いは皆無。
なんともアバウトでいい感じですね…。
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MSR ミニワークスEXのディテール
さて、本体を細かく見ていきましょう。全体的にいえることは、やはり
完成度が高いことです。
付属品もそうですが、少々眉をひそめることはあっても、決定的な不満はありません。
さすが長年、登山家やバックパッカーに、あるいは災害用品として、
ベストセラーで在り続けてきただけあります。
まず、ミニワークスEXの材質ですが、Oリングや逆流防止弁の類(シリコン製)を除いて、すべて
ポリカーボネート製です。
ポリカーボネートは、ナルゲンのボトルにも使われていたように水に対する安全性は保障済みです。
耐冷・耐熱性、耐衝撃性、透明性などに優れる素材です。
ザックの中でギュウギュウ詰めにしても、災害の非常用袋の中でラフに扱われても、破損はまず考えにくいのです。
日常では「水の有り無しが命に関わる」なんて状況は考えにくいですが、
これは非日常のための道具。
いざという時に壊れていたでは話になりません。そこのところ、ミニワークスEXは頼りになる作りをしています。
次に、材質とも関係がありますが、ミニワークスEXはシースルー(透明)です。
なお、MSRの浄水器はシースルーが多いのですが、カタダインはシースルーではありません。
これは、使うときはもちろん、特にメンテナンスのときに重宝する機能です。
おそらくカタダインも、水の腐敗やカビの発生を防ぐため、保管の際には完全乾燥させる必要があるはずです。
このとき、外から水滴が確認できることは、メンテナンス性に優れているといえます。
手が大きな人から手の小さい女性でも握りやすい、大きなハンドルが付いています。
上部にあるくぼみが親指とマッチしますし、ポンピングを少しは楽にします。
先にはホースクリップがついていて、ホースを留めておくことができます。
しかしクリップは、使えないと感じます。スタッフバッグが付属するので留める必要がないのです。
ホースを留めておくとバッグには入りにくいし、ホースが長いのでクリップが1つではあまり意味がないためです。
このハンドルは、ミニワークスEXのデザインを象徴するものです。
「分かりやすく、使いやすい。」これが、私が感じるMSR ミニワークスEXのデザインコンセプトです。
ハンドルはどう動かせばよいか、すぐに分かると思います。これが浄水器だと知っていて、本体と併せて吸水ホースがあれば、
上手な使い方はできないとしても、ほぼ間違いなくろ過、つまり「飲料水の確保」ができます。
冒頭でも書きましたが、完成度が非常に高く、シンプルで機能的な形をしています。
まず、工具なしで分解とメンテナンスができます。フィールドで必要といえるのは、水気を切るタオル類くらいでしょう。
完全なメンテナンスとなると、スクラブパッドとワセリン類、煮沸用の容器などが必要ですが、通常は必要ありません。
通常メンテナンスなら、分解→メンテナンス→組立に15分とかかりません。
さらに、
同じパーツは使っていないので、パーツの付け間違えも起きません。複雑な、または重要なツールほど大切な要素だと思います。
その他の細かいディテールについてですが、見た目はそこまで完璧なわけではありません。
製品の所々には、「バリ」がはっきりと残っています。
左の写真では、本体上部のバリを写していますが、フィルターケース、ハンドル等についてもバリがあります。
機能面で問題はないため、私は気にしてません。しかし所有欲でコレクションする方には許せないかもしれません。
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付属品のディテール
1.吸水ホースとパーツ
付属する吸水ホースとパーツです。この中に、水を本体に取り入れるための機構が詰まっています。
ホースは外径8mm/内径5mmの柔らかいシリコン製で、水面まで少し離れていても水を吸い上げることができます。
ホースの先にはスポンジのプレフィルターと、吸水孔を水に沈めるための重しが付いています。
またホースには上下に移動できる浮き(フロート)があり、吸水孔から水底の汚泥などを直接吸わないように調節できます。
2.取扱説明書
多国言語に対応した取扱説明書です。ビニールコーティングされているので、水をモロに扱うツールとしては少し安心です。
ただしこの説明書、メチャクチャ解りにくいです。詳しくは後述しますが、何のための日本語ページか疑いたくなるほどです。
英語をそのまま直訳したような文章も多々ありますし。なおパッケージが新しくなったときに、取扱説明書も新しくなったようなので、
現行の説明書は分かりやすいかもしれません。
3.スタッフバッグ
ペラペラのナイロン製スタッフバッグです。MSRのロゴがデカデカと書いてあります。
まぁ作りは付属品として及第点ですが、「売り物にはできないだろうなぁ」という印象です。
裏面はメッシュなので、中身の確認は容易ですが、本体が濡れたままザックに入れるのは抵抗があります。
大きさは16cm×30cmで、パッケージに入っているものがすべて、余裕で入ります。防水袋に入れたい方は参考にしてください。
4.スクラブパッド
目詰まりしたセラミックフィルターを削るためのスクラブパッドです。
色、質感ともに、食器を洗うスポンジについている深緑の部分に酷似しています。
実際に、それで代用可能なことは証明済みなのです。大きさは72mm×72mmってところです。
一応、付属品には研磨のために金属塵が生地に練りこまれているようで、光を反射して部分的に光ります。
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MSR ミニワークスEXの使い方
ここではMars流のミニワークスEXの使い方を記載しています。
…とはいっても、分かりにくい付属の取扱説明書をMarsなりに解釈しただけです。
◆基本的な使い方 どんな水をろ過するか
MSRの取扱説明書をそのまま書くと、
「海水は不可で、できるだけ澄んだ水であること、30cm先も見えない濁った水や泥水は極力避けること」となります。
魚がいる普通の河川や、プールに溜まった水、雨水、風呂桶の水は大丈夫です。豪雨で濁った河川や水溜りの水はダメ。ということでしょう。
ろ過できないというより、フィルターの寿命が縮まるために、ろ過しないほうがよいということです。
フィルターの寿命はろ過した水量ではなく、水質に依存します。
よって、少し汚れた、濁った水をろ過したいときは、できるだけ待って濁りが沈殿するのを待つか、簡易なフィルターで一度ろ過してからがよいことになります。
◆基本的な使い方1.吸水の準備
▲
1.ケースカバーを外す。
1.すべてのパーツが正しく付けられていることを確認し、フィルターケース底部のケースカバーを外します。
2.吸水ホースを、本体のホース取付口に取り付けます。
3.フロートの位置を上下に調節して、吸水孔が水底につかないようにします。水深が十分にあるときは、吸水孔から30cmほど離します。
4.吸水孔を水中に入れます。吸水ケージが重しになり、吸水孔が水中に沈みます。
水底の砂利や濁水を吸うと、フィルターの寿命が一気に縮まります。
注意してください。
▲
2.ホースを付ける。
▲
3.フロートの位置を調節する。
▲
4.吸水孔を水に入れる。
◆基本的な使い方2.底部に容器を取り付ける
ミニワークスEXは、底部にナルゲンのWide-Mouthシリーズを直接取り付けることができます。
通常の広口1Lサイズのボトルです。同じ口径ならどれでもOKです。
キャメルバック ボトルの全シリーズにも対応しています。
何をつけても自由ですが、何かをつけることを強く推奨します。
ペットボトルなどの普通の容器では、片手で容器を押さえていなければならないため、ポンピングが非常に不便です。
ところで、最初に外したケースカバーは、逆にナルゲンのキャップに付けておきましょう。
作業中の紛失を防ぐことができます。当然ですが、口径は合います。
◆基本的な使い方3.呼び水する
ハンドルを押し引きして、ポンピングしてください。
吸水孔から水が吸われ、ピストンの中からフィルターケースの中へと水が満ちていき、
フィルター底部の穴からろ過された水が出てきます。これで呼び水が完了しました。
◆コラム.エアースプリングアキュムレーターについて
エアースプリングアキュムレーターとは、この場合は
「空気圧を蓄える構造」と考えてください。
セラミックフィルターの上部についています。
ミニワークスEXは、ハンドルを押す力だけでフィルターに水を通しているわけではありません。
メインとなるのは
空気圧です。圧縮した空気が元に戻ろうとする力を使って、フィルターに水を通しています。
なお、この機能を使うにあたって特別な操作は必要ありません。ポンピングするだけで自動で作動します。
◆基本的な使い方4.水を溜める
ポンピングを続け、容器にろ過した水を満たしていきます。
MSRの公称では
1分間で1Lの水をろ過できるとしていますが、どう考えてもそこまで早くはできません(詳しくは後述)。
なお、本体底部には
水と空気が抜けるための隙間が設けられていて、高圧で容器が破裂するのを防いでいます。
使い方3.で説明した通り、空気圧でフィルターに水を通しているため、ポンピングを止めても、しばらく出水孔から水が出続けます。
溜めている容器を見て、満タンになる少し前にポンピングを止めないと、
この隙間から水がピュッと飛び出てくるので、うっかり服を濡らすハメになります。
大した問題ではありませんが、注意しましょう。
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効率よく水をろ過するには
ミニワークスEXで水をろ過するのは、
実はけっこう疲れます。
私は登山での使用が多いため、疲れたときに行なうのでなおさらです。
ここでは、少しでも楽にろ過するための情報を載せたいと思います。
実験中・執筆中
裏技的な使い方
MSRミニワークスEXを所有している立場から、経験的に
「こんなこともできる」という裏技的使い方を掲載しています。
なお、裏技的使い方はMSRの推奨外であり、ろ過性能は保証される数値を満たない可能性があることをご了承ください。
実行は自己責任でお願いします。
<水深が浅く、流れがある場合の吸水の準備>
▲吸水孔を固定する
山間の沢に多いのですが、準備(1)の方法だとフロートごと吸水孔が流され、
浅いところまで流れ着くと、吸水孔が水底に当たっていることになります。チッ。私は次のような手順をとっています。
1.(1)と同じように、フロートの位置を調節します。
2.吸水孔に対してフロートの反対側あたりの吸水ホースを、石などで水底に押さえ付けます。
3.これでホースは流されず、吸水孔は水底から離れているはずです。
<吸水パーツがない場合>
▲水面から直接吸う
事象としては稀だと思いますが、吸水ホースがなくてもろ過はできます。ナルゲンなどの専用容器が必須になります。
要は、ホース取付口を水面に押し付けて、ハンドルを動かせばよいわけです。
なお、プレフィルターがないので、見た目が澄んだ水に限られます。
さらに、吸水部より出水部が上になるため、空気がすべて出水部から抜けます。
そのため、エアースプリングアキュムレーターは発動できません。
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MSRミニワークスEXのろ過性能
ミニワークスEXのろ過性能は、メーカー公称では
0.2μmで、
細菌類(大腸菌、サルモネラ菌など語尾に「菌」がつく)、
原生動物(エキノコックス、ジアルディアなどカタカナのみの名称)のほぼ100%と、
不快な臭いや味の原因である
化学物質、
農薬を除去できるとしています。
これらを素人がフィードバックすることは不可能なので、メーカーを信用するしかありません。
また、99.999…%の
9の数は、理論上100%ではないだけで、ろ過形態(ミニワークスEXはセラミックと活性炭)が同じなら、
99%でも99.999999%でも、変わりはありません。
『99%』のろ過が「100個の細菌のうち、1個の細菌を取り逃がす」ことを意味するわけではないのです。気にする必要はありません。
なお、ミニワークスEXでは、
ウイルス(インフルエンザ、ポリオなど語尾に「ウイルス」がつく)は除去できません。
しかしこれも、
カタダイン
のホームページを見ると、ほとんど気にする必要のないことだと分かります。ウイルスは単体で存在できず、
他に上記の細菌類や原生動物などの寄生宿が必要であるためです。
◆参照・引用(五十音順)
・MSR ミニワークスEX 取扱説明書
Mountain Safety Research 発行、p.31-49
・Mountain Safety Research ホームページ
http://www.msrgear.com/
・アウトドア流防災ブック(2004年、初版)
BE-PAL編集部 編、株式会社小学館 発行、p.45-46
・アウトドア・サバイバル・テクニック(2000年、初版)
赤津孝夫 著、株式会社地球丸 発行、p.54-55、p.190-191
・バックパッキングのすすめ(2005年、第4刷)
堀田貴之 著、株式会社地球丸 発行、p.144-145
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